今や街にかかせない存在、コンビニ。コンビニエンスストア。便利なお店。
しかし通い続けると、そこはただ便利なだけではない、相互観察の場となる。
店長メガネ変えた?
新人さん、慣れて来たようだ。
君、明るすぎないか。
言葉は交わさない。いや、交わしてはいけない。
ボロボロの格好で買い物に行っても、夜中に酔っぱらってお酒を買いに行っても、勢いでチキンを2本買ってしまっても、店員さんは黙って受け流してくれるのだから。
今回は、客側から勝手に見たレジの向こうの景色を書いてみる。
- 夜勤
- 夢のコンビニ
- やきそば
◇夜勤
そこは小さなコンビニだった。小さいうえに人通りの少ない路地に面していて、地元の人がタバコを買うのに重宝、といった感じの渋い存在だった。
このコンビニで一番良く見るアルバイトは、ひょろりとしたメガネの青年だった。
額にはニキビ。メガネがいつも少しずれていて、この青年が笑っているのを見たことがなかった。人と目を合わせるのが好きではない、といった雰囲気で、時間があるとレジの奥に寄りかかって指をいじっていた。
ある時このコンビニに新人バイトが入った。
ショートボブの髪の毛を耳の前に垂らし、その垂らした髪の上からメガネをかけ、そのメガネの上に前髪がかぶさっている。実際の距離よりもだいぶ奥に居るような印象の、小柄な女の子だった。
青年と新人は二人とも夜勤だった。店に響くのは、小さな「いらっしゃいませ」の声と店内放送。静けさの中でも息苦しいタイプの静けさ。思えば数々の元気なバイトがここを辞めて行った。店のどこからも、ガスは抜けていなかった。
何度も通ううちに、やっと二人が話すのを見るようになった。業務についての短い会話。目は合っていなかったが、息苦しさは少し軽くなったように感じた。
そのうちに、二人が微笑むようになった。相変わらず目が合うのは一瞬だが、会話が何度か続いたあとに二人がフッと笑う。
心無しか、青年がテキパキと働いている。
私は確信した。
変化は早かった。二人はレジで助け合う。一人が打つ、一人が袋に詰める。
列が出来ると「こちらへどうぞ」と爽やかな声。店が、変わった。
二人はいつも同じシフトで入るようになった。彼女も仕事に慣れてテキパキ働く。高い所にあるものを彼が取ってあげる。レジの中でぶつかりそうになって、二人で笑う。
そしてその時は来た。
「いらっしゃいませ」の声に、余裕を感じた。
明るい。明るいが、もうはしゃいではいない。
二人はカップルになったのだ。
祝福の気持ちがこみ上げる。
笑顔で接客する二人が眩しい。
客が少し目を離すと、至近距離で見つめ合ったりしている。
出来立てホヤホヤである。
カップル夜勤は続いた。
そのうちホヤホヤも日常になり、若い夫婦のような雰囲気になった。二人でコンビニを始めれば良いかもと想像が膨らむ。
そのうち片方だけ出勤の日もあるようになった。同棲でも始めたのだろうか。
そのうち二人が揃っても笑わなくなった。喧嘩でもしたのだろうか。
そのうち、とても静かになった。
そして彼女が店を辞めた。
青年はその後しばらく働いたが、やがて辞めた。
二人は今、どうしているだろうか。
あの日々を私も勝手に忘れられない。
◇夢のコンビニ
駅前に小さなコンビがある。小さいが駅前なので、急いで飲み物を買う人などで常に人が流れている。
ある時期、この店のスタッフには個性派が揃っていた。
制服こそお揃いのものを着ているが、それぞれのスタイルはそれぞれの個性そのままに働いていた。
アトムの頭のような形に髪を固めている青年がいた。顔にピアスが一杯の女の子がいた。真緑の髪の女性がいた。他にもいろいろ、細部は忘れてしまったがほぼ全員個性派のビジュアルだったと思う。
コンビニに入ったら店員が全員キャラクターだった、大袈裟に言うとそんな感じであった。
店長はさぞ懐の深い人物なのだろうと思い、日々探した。
しばらく観察すると店長がわかった。がっちりとした体格の、柔和な笑顔の男性。彼のスタイルはさほど個性派ではなかった。
みんなどうしているだろうか。
揃って違うコンビニで働いていたら良いなと夢見る。
◇やきそば
その高校生とそのおばちゃんは、同じコンビニで働いている。
高校生はいつも厚いジャンパーを着ている。
もともと大柄な上に厚いジャンパーを着ているので、パンパンである。
風邪気味で鼻をすすっていたり、レジで何かを迷っていたり、彼には放っておけない何かがある。ジャンパーも、規定外かも知れないが「いいから着ていなさい」と誰かに言われているに違いない。
おばちゃんは、小柄でおかっぱ。体重は鼻水くんの3分の1くらいかも知れない。「いらっしゃい」という声は抜群の安心感。親戚の中に居たらきっと助け舟を出してくれるだろう、という雰囲気である。
夜にアイスを買いにそのコンビニに入ると、鼻水くんがちょうどカップやきそばにお湯を注いでいるところだった。休憩に入るようだ。
アイスを持ってレジに向かうと、おばちゃんは奥で水仕事、横のシンクでは彼がやきそばの湯きりをしていた。切ったお湯から湯気がたつ。
私に気付いたおばちゃんが「ハーイ」と振り向き手を拭こうとした瞬間、鼻水くんが「いらっしゃいませ」とレジに来た。
休憩前なのにサッとおばちゃんと代われる彼。なかなか良い奴じゃないか、と思っていたら、後ろでおばちゃんが、開いたままだったのカップやきそばのフタを閉めてあげているのが見えた。めくれないよう、上にソースの袋を載せている。
背中合わせの二人。
いいコンビである。
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