お洒落な街シモキタ。
流行のお店が出来ると、若者たちが列をなす。長い長い列。近所の住民はそれを横目に通り過ぎる。
やがて列が短くなった頃、シモキタ住民はイソイソとその店に行ってみる。
今回はそんな流行に敏感なシモキタにありながら、変わらず動かず営業を続ける老舗、中でも金物屋について書いてみる。
- サワダヤ
- 秋元
- 大木金物店
◇サワダヤ
南口商店街を王将方面に下り、初めの三叉路の手前にある。
探し物が見つからない時、サワダヤにあるかな?と口にしてしまう金物店。
店頭にはゴミ箱やスリッパ、買い物カートなど。店内には台所用品、衣裳ケース、風呂のフタ、あらゆる大きさの鍋、あらゆる大きさのすり鉢などが積まれている。
店に入ると、「いらっしゃい」とレジの奥から声がする。
店内を進むと物凄い数の日用品に目移りし、つい目的を見失う。「排水溝の網これに換えてみようか」「この踏み台いいな」など考えながら歩き、肝心の探し物は見つけられないまま、入り口付近に戻って来てしまう。さてどうしよう…とたたずんだその瞬間、「なに?」とレジの奥から声がかかる。
お客が店に入り、店内をくまなく廻り、挙げ句ボンヤリと戻って来るこの光景を、店主はレジの奥から何万回見たことだろう。
何を探しているのか早く聞きたい時もあっただろう。
お客が何も尋ねて来なかったら、声をかけない時もあっただろう。
長い年月を経た今、「なに?」と店主が声をかける瞬間は、一流剣士が顔をあげる瞬間に似ているかも知れない。
◇秋元
もう店じまいしてしまった一番街の金物店。店先には大きな青いポリバケツが置かれていた(売り物)。園芸用品も扱っていたと思う。
ここで印象的だったのは、店内にいつもクラシックがかかっていたことである。
お客のためのBGM、というよりも、カウンター奥の店主が仕事をしながら聞くための音楽に違いなかった。店主はあまりお客に声をかけないので、訪れた方も商品を眺めながらしばしクラシックに浸ることが出来る。
だいぶ聴いたあと、カウンターに行って「こういうのが欲しい」と伝えると、店主から「それには種類がある」と返ってくる。解らないので使用目的を伝える。「じゃコレで良いんじゃないか」と奥の棚から品物が出て来る。
店主はぶっきらぼうだった。ぶっきらぼうだったが、こちらの使用目的を聞いている時、どの品物が良いか考えている時、眼鏡の奥は推理探偵のまなざしであった。名探偵アキモト。相談出来る店が減った。
◇大木金物店
一番街を進み、まもなく鎌倉通りに突き当たる、というところある金物店。
道の両側に店舗があり、左は塗料など、右は工具などを置いている。
下北沢の朝は世の中の昼と言っても良いほど遅いが、ここは早くから作業服を着た客でにぎわう。客は店主と短い言葉を交わし、ポケットの金と引き換えに何かを受け取り店を出る。まさにプロショップである。
この店で紹介したいのが、奥の棚である。
右(北)の店舗をレジ方面に進んで行くと右奥に棚が見えてくるのだが、その棚の年季が半端ないのだ。
天井まであろうかという木製の棚は、濃い渋い茶色で明らかに年代物である。頑丈な板で出来た小さなマスが沢山あり、そのマスに入っている部品の数と年季がまたすごい。はみ出しているものもある。圧巻である。
今はもう製造されていない部品もこの棚にはある。今はほとんど需要のない部品もこの棚にはある。どこに何があるかは店主だけが知っている。先代の店主でなければ解らない物もある。先々代の店主でなければ解らないものもある。(きっとそうに違いない)
諦める前に訪ねれば、思わぬ何かが棚から出て来るかも知れない。
※プロショップの構えに初めは緊張するが、目的を伝えれば誰でも相談に乗ってくれる。合鍵も頼める。
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